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ペットビジネス「子犬繁殖のうまい話」


ペット業界では、子犬の繁殖がらみの「うまい話」に人生経験豊かな大人が惑わされる例が多い。
子犬の繁殖ビジネスは、慎重な計画のもとで行う場合には堅実なビジネスであるのだが、他人に勧誘される形で参入する場合には多くの問題をはらむものである。
何業によらず、うまい話と言うのは、表向きは人のため(貴方が儲かる)だが、実際は勧誘者のためなのだ。

昭和45年「東京畜犬」と言う会社が負債40億円をかかえて倒産した。
各家庭を訪問し「犬を飼いながら2年間に4倍の財テクができる」と持ちかけ、約10万家庭との間に15万頭の犬の飼育契約を結び、年商70億円を超える強大な勢力を誇っていた。
同社の「飼育契約」とは契約者が保証金を支払って子犬(メス)を預かって育て、生まれた子犬は会社が買い取ると言うもの。
契約犬が病気になった場合は、専属獣医が治療にあたるほか、交配も同社の繁殖係員が直接行う事になっていた。              
同社の破綻の一因はその特異な商法もさる事ながら、犬の生理を無視した皮算用が災いしたようだ。
当時の新聞記事から要旨を転載する。

ワンワン騒動の東京畜犬会社(資本金6億円)がついに、その特異な商法に破綻をきたし、事実上倒産状態となった。
負債総額は40億円に達するといわれ、同社が全国10万人と公称していた契約飼育者から預かった保証金だけでも20数億円にのぼるとみられている。
誇大な宣伝で多数の客からカネを集め、それを回転させることで経営をささえてきた商法は、契約者に対する飼育料の支払いに追われ、飼育料を払うために無理して新規契約者をふやすという「自転車操業」に追い込まれた。
東京霞ヶ関の本社は閉鎖、全国200を越す出張所、販売代行店も営業を停止した。
1200人いた社員の退職が相次ぎ、幹部のほとんども姿を消した。

前代未聞の「イヌの競売会」が、どしゃ降りの中、御殿場市の同社犬舎で行われた。
139匹は、数千万円の債権者である東京の某自動車販売会社からの申し立てで、静岡地裁沼津支部に差し押えられた。
だが、この10日間でエサ代が20万円もかかって始末に手を焼き、異例の競売に持ち込まれた。
競売は、同地裁沼津支部の執行官、それに債権者側の獣医と弁護士が立ち会い、
各犬舎のオリの前で進められた。
最初のセリは、ジャイアント・シュナウザー。
執行官が「見積もり5千円」というと「3千円」「4千円」とセリ声。
結局、静岡市から来た業者が8千円で手に入れた。
全米チャンピオンだったというグレイハウンドは、わずか9千円。
コッカースパニエルやワイヤーなど、一般にもなじみの深いイヌは1500円から3千円。
バセット・ハウンドの1000円というのまであった。
ロシア皇帝の象徴といわれたボルゾイは、東京畜犬のカンバン犬で、雑誌に2千万円と紹介されたのに、なんと5千円。
「オモチャのぬいぐるみだって、こんな値段では・・」と、東京から車でかけつけた若い女性はシェパードの成犬を2千円で落札した。
約3時間にわたる競売の結果、売れたのは80匹。
売り上げ総額約23万円で、これまでのエサ代程度に終わった。

余談であるが、東京畜犬に在職していた1200人の元社員の多くが、その後各地でそれぞれペットショップを開業した。
現在、全国で老舗と言われるペットショップの多くがこの時に由来する。
古い話ではあるが、業界では決して風化しておらず、ペットビジネスにかかわる限り、しばしば会話に出てくる。
我が国に多くの洋犬を持ち込んだのはこの社であり、血統書を身内で発行していたために、この騒動の後、血統の怪しい犬が増えたとも言われている。
知っていて得する話ではないが、知らないと損をするかも知れない。