ペットビジネスに於ける究極のトラブルとは、業務上愛犬家から預かった犬の死亡や逸走である。
まさかと思う出来事であるが、ペットビジネスの経験が長い人の多くが経験している。
子犬を売った直後の死は、少なくとも幾分か「損失」としてとらえられ、ペットショップ側はこれに対し、主に金銭や代物によって補償する。
一時的にはトラブルではあるが、誠意をもって対応する事で解決に向かうものである。
だが、すでに犬がその家族の一員となっており、特に子育てが終わった主婦が、我が子同然(以上)に溺愛するケースで、その犬に万が一の事が起こった例では一通りの謝罪で済む問題ではない。
ペットショップの過失による成犬の事故には次のようなものがある。
○ペットホテルでの事故
○ペット美容中の事故、送迎途中の逸走
ペットホテルでの事故は夏に起こる。
狭いケージに入ることに慣れていない中・大型犬を預かるとする。
夏期はペットホテルの繁忙期だから、隣りのケージも向かいも犬がいっぱい。
猫も居たりする。犬が吠えない訳がない。
夜中も吠え続ける。さてどうする?
どうしようもなく放置しておけば、近所から苦情は来るが事故にはならない。
どうにかしようとした人が事故を招く。
もっとも悪い事例が口輪である。
吠える犬に口輪をするとどうなるか?
口が大きく開かないから幾分静かにはなる。
だが、犬の口は音を出すだけの道具(クラクション)ではなく、熱交換器(ラジエーター)の役割も果しているのだ。
吠える犬の体温は上がる。口輪のおかげで冷却が不可能となり、限界を超え、さらに上昇する。
このオーバーヒート状態では、発見が早く、強制冷却がうまくいかない限り死亡する。
これだけ余裕(すき間)があるから息は出来る。などと考えたのが間違いのもとである。
この状況で死んだ犬の肺の異変は顕著で、「解剖」にまで話がもつれたらごまかせない。
トリミング作業中にも事故が起こる。
箱型の自動ドライヤーで熱射病状態になるケース、最近の機種は改善されているが、自動ドライヤーは客への配慮から見えにくい場所に置かれている場合が多く、スタッフの目が届かないための事故が多かった。
自動ドライヤーの市販品が高価な時代、これを自作する事が流行った。
箱に穴をあけ、手持ちのドライヤーやふとん乾燥機を取り付けたものである。
確かに乾くが、危険極まりない装置である。
トリミングテーブルから転落しての骨折は良くある。
トリミング中に電話が鳴り、テーブルから離れた時に多い。
骨折しない場合にはその後が問題、店の構造と運が悪いとそのまま逸走するのである。
店の前が車の通行量の多い場所だと、ここが事故現場となる。
運が良くても行方不明になる。
近所の犬なら家に戻る事もあるが、遠方から車で送迎した犬の場合は望みはうすい。
次に行方不明の犬の捜し方。(俗説が多く保証の限りではありません)
犬種によって走り方がちがう。
ハスキーやスピッツなどソリ引き犬を先祖に持つ犬は、まっすぐ突っ走る。
愛玩の小型犬種はむやみに直進せず、角があれば曲がることが多い。
橋は渡らないと考えた方が良い。
犬の気持ち(目線を低く)になって町を歩いてみる。
逃走中とは言え、他犬が吠える様な場所は避けて通ったはずである。
犬はネオンを恋しがったりしない、焼き鳥屋の前に座っているとは限らない。
おおざっぱに言って1日目は1キロ以内に居る、2日目で2キロ以内、とにかく早く捜すことだ。
案外近くに居てびっくりする事が多い。
住宅密集地だと、どこかの家で保護されているケースが多いのでチラシを作ってあちこちに貼る。
「チラシを貼っても良いですか?」などと電力会社に電話している場合ではない。
運良く発見した場合には、気持ちはあせるが、むやみに走って追ってはならない。(追えば逃げる)
意識させないスピードで近づく、充分近づいたら、しゃがんでやさしく呼んでみたりする。
ジャーキーの入っていそうな袋を見せて音をさせると来たりする。
名前を呼んだり、手をたたいたりして、犬に注目させて反対方向に走ってみる。
追って来たら、しゃがんで受け入れる。
その日の捜索で見つからない場合には動物保護センター、交番、ペットショップなど思いつく限りの事をする。
それぞれのケースで最悪の場合の、その後の飼い主とのやり取りなど、想像するだけでも、ぞっとする。
「何で、こんな商売を始めたのか・・」と後悔の数日間を過ごす事になる。
確実にダイエットにもなる。
事後処理にも少しふれておきたい。
ペットホテルの場合は、飼い主は旅行中のケースが多いから死体を保管して帰りを待つ事になる。
この季節、動物の死体を数日保管するのは大変な苦労をする。
大きめの箱とドライアイスを入手する。
大きさはピッタリでも「ゴキブリホイホイ」などと書いた箱はやはりまずい。
ドライアイスの入手先を知っているのはケーキ屋だ。
美味しくなくても日頃から近所のケーキ屋とは仲良くしておいた方がよい。
飼い主が戻って来た時の事を考えると、明るい花で飾るなどの誠意も欲しい。
箱を地面に置いたりしない。 |