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ペットビジネス「販売後のトラブル」


ペットビジネスに於ける最大のトラブルは生体の健康問題で、その究極は生体の死である。
子犬の仕入れ以降、消費者に渡るまでの「死」は損失と考える事もできるが、販売直後の生体の死は必ずトラブルに発展する。
生後40〜50日を正常に成長して来た子犬が、その後の数日間で死ぬ原因と言うのは、何人と言えども軽々に断定すべきではない。
ところが、動物病院では「原因不明で死んだ」では、先ず格好が付かないし、お金も取れない。
人間のように心不全などと言う都合の良い病名も使えない。
多くの場合、例の2大病名が出て来る。
「パルボ」と「ジステンパー」である。
動物病院が「パルボのようだ・・」と言えば、消費者は「パルボ」と信じる。
消費者はペットショップに対し、「パルボの子犬を買わされた・・」と抗議する。
もちろん、実際に「パルボ」の時もあるのだが、販売直後の子犬の死亡の原因が「パルボ」や「ジステンパー」である確率は近年では、かなり低いと思われる。
消費者は納得しないかも知れないが、「ストレス」が問題なのだ。
ストレスは直接の死因にはならなくとも、多くの病気の発症の原因になるのだ。
ストレスが付加された子犬は、回虫がいるだけで衰弱し死に至る事がある。
だが、この場合に「回虫が死因」と決めつける事は正確さを欠く。
この時期にこの子犬と同胎の子犬が、母犬と共に暮らしているとしたら、たとえ回虫が居たとしても生きているはずである。
下痢をしている人間の子供がすべて「赤痢」ではないように、下痢をした子犬がすべて「パルボ」である事はない。
不適正な食餌により消化不良を起こし、水様便を経て血便に至る事もある。
下痢に付きものの細菌の増殖にもストレスが関与する。
神経質な子犬では、母犬から離され環境が変わった事がストレスとなり、病的となる事もある。
これらが必ずしも死に至る「病い」で無い事は、衰弱状況にある子犬を早い時期に母犬に戻す事ができるケースでは健康を回復する事を見てもわかる。

多くの流通子犬は、人間の都合による早すぎる離乳、輸送、環境変化、給餌の不適正、などによってすでに高ストレス状態にあると考えるべきである。
生体販売業者は、子犬の移動や保管に際し、ストレスの軽減を第一に考える事で事故を減らす事が可能になる。
いかなるフードも受け付けなかった子犬が、膝の上に乗せ、手のひらからなら食べると言うような事もある。
1頭では食べなかった子犬が、他の子犬と競わせるようにすると食べる事もある。
子犬の視点に立ち、子犬の気持ちになって、愛情をもってケアーする事が小さな「命」を救う事になる事に早く気付かなければペットビジネスの安定経営はない。

生体販売業者は、土日曜日に多くの生体を売る関係で月曜日の電話が「恐い」と言う。
所有権は明らかに消費者に移っていながら、その「健康状態」については継続的にフォローしなければならないのが、ペットショップである。
ペットショップが生体を販売する値段の中にはもちろん、このアフターフォローのためのコストや万が一のリスクも含まれるべきである。
5万円で仕入れた子犬を、6万円で売る事が出来ないのはこのためである。
ペットビジネスを単純な物販と考えるべきでは無い。
生体販売後の数日間、数週間は、プロでさえ管理の難しい幼い生体を、素人に任せるのだから「何も無い」のが異例と考えるべきだ。
やや理屈っぽくなるが、投げ上げられた石のように、子犬の健康状態はある瞬間を見ただけでは、悪くなっているのか、良くなっているのか判らない。
体温が39度あった場合に、さらに上がるのか、下がるのかは再度時間をおいて計らなければ判らない。
動物病院に於ける1回のみの診察がまさしくこれに当たる。
生体販売業者は、少なくとも継続した何時間か、何日間か、その生体を観察する事が可能である。
体温が上昇しているのか、下がっているのか判る立場にもある。
同胎子犬の健康状態と比較できる立場にもある。
昨夜はフードを食べたのか、今朝はどうかも知っている。
可能な限りの情報を集約し、経験と照らし合わせれば、少なくともその生体に対する最善の処置を導き出せるようになる。
補液が必要ならば、この後動物病院を訪ねれば良い。

生体を扱う仕事を何年か経験すると、直感的に生体の健康状態を判断できるようになる。
死んで行く子犬の目の色がどのようであるか、治癒に向かう皮膚病の状態がどのようか、日々遭遇する貴重な事例から学ぶ事を怠ってはならない。
手に取って、口をこじ開けて匂いを嗅いでみなくとも、不健康な子犬を発見する事を可能にする膨大なデータベースが頭の中にできてくる。
「100頭殺さなければプロではない」と言われる業界であるが、熱意さえあれば100頭殺さなくてもプロになれる。

開店直後から生体の管理を獣医師にまかせ、わずか数頭の在庫でありながら高額な費用を支払っている例を多く見かける。
お金の問題はさておき、このショップの将来は暗い。
生体管理のプロが育たない店では、同胎犬の内、売った犬は元気だが、在庫の兄弟が死んで行くと言う、なんとも情けない事がよく起こる。
仕入れ台帳に赤い線を引く回数は少ない方が良い。