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ペットビジネス「犬のトレーニングビジネス」


日本は、数量的にはペットの先進国と位置付けて良いレベルにまで来ているが、明らかに欧米の水準に至ってない分野がある。
それは犬のトレーニング(教育)である。
狩猟民族である欧州では、犬は猟犬としてトレーニングする事によって始めて「犬」となった。
実際、ヨーロッパでは猟性能を重視した犬の繁殖活動が行われて来た。
この文化は現代にも続いており、イギリスの犬種分類の基本は、猟に使えるか(スポーティング)使えないか(ノンスポーティング)で大別される。
世界初のドッグショーもイギリスでの猟犬の交換会が発祥である。
当然、猟性能を高めるためのさまざまなトレーニング手法が考案され、確立され、現代に至っている。
イギリスでは、犬の飼育を始めた人は、餌を与えるのと同じようにトレーニングを始める。
イギリスを旅行した時に見かける、あの礼儀正しい犬たちは、特に優等生なのではなく、犬が市民権を得て人間社会と共生してしている姿なのだ。
イギリスには犬に市民権を与える活動「グッドシチズン・ドッグ計画」と言うものがあり、ほとんどの飼い主は、このためのトレーニング会場に犬を連れて参加する。
イギリスではK・C(ケネル・クラブ)の指導のもとに、全国に「犬の学校」が設けられており、全国どの地域でも社会生活に必要な一定水準の犬のトレーニングを受けられるようになっている。
我が国の犬の訓練の概念と最も異なる点は「犬の学校」へは犬の飼育者と犬がともに出席し、直接犬をトレーニングするのは飼育者であるという点である。
「飼い主がトレーナーに最もふさわしい」と言う理念をそのまま実践している点は、見習うべき所が多い。
各学校にはそれぞれ著名なトレーナーが所属していて、ボランティアに近い状況で多くの犬(飼育者)の指導にあたっている。
学校の雰囲気は、笑顔が絶えず、きわめて明るいもので、地域の犬好き家族の社交場的様相である。
「飼育者を指導する」方針が正しいと言わざるを得ないのは、週2回の授業は、まさに飼育者がトレーニングの方法を教わるためのものであって、犬のトレーニングそのものではない事による。
そもそも週2回の30分程度のトレーニングだけで犬がこれほど利口になる事はない。
飼育者は教わったトレーニングの課題を日常的に実践し、消化し、次の授業に備えている点がきわめて重要である。
修了テストに合格した犬にはグッドシチズンの称号が与えられ、証状とリボンが交付される。

欧米では古くから、犬が人と同じ部屋で暮らすのが普通で、我が国で言う「室内犬」や「そと犬」と言う区別はされない。 
人と犬がごく近い距離で共同生活を営むには、人と人の関係のようにお互いにルールを守る事が必要である。      
これらの諸国では飼い犬が他人に傷害や損害を与えた場合のペナルティも大きく、社会道徳としてごく普通にすべての飼い犬が一定水準のトレーニングを受けている。
我が国では「訓練に出す」「訓練士にまかせる」方式が一般にトレーニングの方法として論じられている現状に疑念を禁じ得ない。

さて、トレーニングの必要性についての認識が高まりつつある、日本の現状はどうであろうか?
我が国におけるペットの飼育形態も大きく変化を遂げており、「お座敷犬」として飼育される犬でさえ、社会との関わりを持つ機会が多くなってきた。
積極的に犬を外へ連れ出そうとしない家庭の犬でさえ、予防接種やグルーミング、ペットホテルなど家庭を出て家族以外の人との接点を持つ事になる。
ましてや犬を連れてのレジャーやスポーツが盛んな現代、家庭よりもむしろ地域社会での適正行動をめざしたトレーニングが必要な時代に入ったと言える。
ペットとの共生社会に於いては「手がかからなければ良い」というような個人的に満足する範囲ではなく、迷惑をかけずに人間社会に適応できる水準まで犬の能力を高めなければならない。
マンションや公営住宅でもペットの飼育が可能となりつつある現代、ペットのトレーニングは特別な事ではなくなった。
これまでペット美容師の養成が中心であったペット関連専門学校でも、家庭犬トレーナーの養成課程を新設する動きが活発である事は喜ばしい事である。
家庭犬トレーナーと言う資格がトリマーと同様、もしくはそれ以上に脚光をあびる日も近い。

我が国には警察犬訓練と呼ばれる形態のトレーニング手法がある。
これはもともと軍用犬訓練の流れを汲むもので、現代の家庭犬のトレーニングに適合した手法とは思えない。
筆者はイギリスの著名なトレーナーとの会話の中で、日本の警察犬訓練の話をしたら、「ナチスのやっていた訓練をまだやっているのか」と言われた経験がある。
近年になって、東京近郊のある量販店の駐車場で、犬の飼育者を集めてトレーニング教室を開こうとしたが、依頼したトレーナーが某団体に所属するトレーナーであったために、中止せざるを得なかった。
つまり、そのような活動は「仲間の仕事を減らす活動」だと言う、実に日本的な理由で某団体が圧力をかけたのである。

今、まったく新しいトレーニングの文化を日本に根付かせようとする試みが始まっている。
欧米のトレーニング手法を日本に取り入れ、旧来の訓練とは一線を画した「家庭犬トレーニング」の普及を目指すものである。
各所でトレーニングインストラクターを養成するための教室も開かれている。
技法を身に付けた人々は飼育家庭に出向いて、家庭犬のトレーニングを行うサービスを始めており、ビジネスとして成り立つレベルに達している。
筆者のところには、大手デベロッパーが手がけたペット可マンションの入居者を集めて、飼育マナー講習会を開いてくれとの依頼も来ている。
ペットの飼育者はますます増加すると予想される。
今後、家庭犬のトレーニングビジネスが盛況となるのは必然で、新しい時代のトレーニングビジネス参入者には追い風が吹いている。